01_日記 村上春樹 全短編を読む

「ねじまき鳥と火曜日の女たち」

村上春樹の短編「ねじまき鳥と火曜日の女たち」を読む。

facebookで知り合いのハルキストさん(と言ってしまおう)が、村上春樹の短編を読み返しているという投稿をチラ見して、そう言えばさいきんすっかり村上春樹(の作品)から離れているなあと思ったのだ。とくに最新短編集はさらっと読み終えてしまったくらい。

読んだのは、『「象の消滅」 短篇選集 1980-1991』(新潮社)に収録されたバージョン。書誌学的なことには興味はないのだが、細かい箇所に手が入っている。元のバージョンとは大差ないようなので、初期バージョンを読むことはいったん已めておく。

この小説はすでにご存じの通り、長編小説『ねじまき鳥クロニクル』の原案となったもの。
30代の失業中の主人公〈僕〉のところに奇妙な電話がかかってきたことをきっかけにして(?)、「ワタナベ・ノボル」という名前の猫探しをするために、「路地」へと入り込む。そこでまた奇妙な体験をするのだが、この短編は前半と後半とに分かれている。わたしが前段で「(?)」としたのはその意味でもある。

前半は主夫と妻とのやりとりが中心で一見して家族小説風であるが(それでもいささか奇妙であることには変わりはない)、猫を探しに行く後半は「路地」に入り込んで現実味のない世界が展開される。入り口も出口もない「路地」という場所、〈死〉への興味を語る娘、だだっ広く人気のない庭、初夏とはいえ意識を朦朧とさせる暑さなどは、異界そのものではないか。

物語の最後、「路地」から帰還した主人公に、妻は「あなたが猫を殺したんだわ」と言い放つ。そして暗闇の中で泣く。「あなたはいつも自分で手を下さずにいろんなものを殺していくのよ」と。

それに対して主人公はなにも答えない。それを指弾するかのように電話が鳴る。かけているのは昼間の女なんだろうか。物語としての明確な着地がないままに、われわれは放り出される。たしかにこの終わり方は長編へ続く予感はする、と言われればそうかもしれない。

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